01 / SPACE
空間
空間を、音の位置を決めるだけの器から、関係を組み立てるための変数へ広げます。音源、集団、領域、聴取位置、出力先を別々に記述し、どの関係を変えたときに音楽の構造が変わるかを試します。
位置と関係を分けて記述する
位置には三つの軸を使い、音源の軌道、集団の中心、領域の中心をそれぞれ持たせます。音源を動かす操作と、周囲の領域を動かす操作を分けることで、同じ軌道を別の条件で聴けます。
対象自身の座標で規則を読む場合と、集団や空間の変形後の座標で読む場合も区別します。たとえば集団を回転しても音色の配列を保つ条件と、固定した音色の領域を横切る条件を比較できます。
領域に音の規則を置く
領域は球、箱、平面や、境界までの距離を記した格子で表します。中心、向き、大きさ、境界付近の変化幅が設計変数です。内側へ入るにつれてエフェクトを強めたり、境界への進入と退出を出来事として記録したりします。
領域が重なる場合は、強い方を採る、加算する、優先度で選ぶ、混ぜる、といった規則を明示します。重なり方を変えるだけで結果が変わるため、その規則も作曲の設定として保存します。
音源から出力へつなぐ
一つの音源と一つのスピーカーを同一視しません。位置を持つ音源の信号を、出力点との距離に基づく比率で配分します。出力の配置が変わっても、音源のIDや元の作曲規則は分けて保持します。
音楽的には、近接した声部、離れた応答、領域を受け渡す音を構成できます。ただし数値上の距離と、聴き手が感じる距離は同じとは限りません。ステレオ試聴と多出力での評価を分けます。
何を比較するか
軌道と発音を固定し、領域の位置か出力配置の一方だけを変えます。音の分離、境界での連続性、同じ場所へ戻ったときの再現性を調べます。聴取位置や音量の違いも、比較条件として記録します。
制作例の設計
動く音源と動く領域
- 一定の音を周回させ、音色を変える領域を固定します。通過する場所と音色変化を記録します。
- 次は同じ音源を固定し、領域を移動します。位置の移動と音色の変化を分けて聴きます。
- 両者を組み合わせ、音源と領域の速さを変えます。同じ条件を保存し、音だけの比較も行います。
現在の実装
制作基盤には、座標と集団の変形、領域の移動、距離による影響量、進入・退出の記録、出力点への音声配分を実装しています。音場や聴覚を完全に再現するモデルではありません。
研究課題
今後は、領域の配置が声部のまとまりや注意の移動へ与える影響を調べます。複数の聴取位置で比較し、特定の出力配置に依存する結果と、他の配置にも使える作曲規則を整理します。
目次へ戻る ↑02 / SYNTHESIS
音源合成
音源を、音高だけでなく、音色、立ち上がり、揺れ、位置を持つ単位として設計します。同じ合成方式のまま空間との結び方を変えることで、何が音の違いを生んだのかを追える楽器を目指します。
方式・パラメーター・制作手順を詳しく読む ↗音を組み立てる変数
基本波形は正弦波、三角波、鋸歯状波、矩形波です。それぞれの比率を混ぜ、ノイズ量、フィルターの開き、共鳴の強さを加えます。波形の混合と音高を分け、同じ旋律でも音色だけを変えられます。
音量の時間変化は、立ち上がり、減衰、持続、離した後の余韻で記述します。短い点のような音と、長くつながる音では、同じ軌道でも聴く手がかりが変わります。この差も比較する変数です。
音色を空間へ配置する
音色場には、波形の比率やフィルター値を持つ基準点を置きます。音源から近い基準点を使って値を補間し、その場所の音色を計算します。離れた設定へ突然切り替える代わりに、移動の途中も扱います。
音源が速く移動すると、同じ音色の領域を短い時間で通過します。ここでの速さは位置を介して音色変化へ関わります。速度をそのまま音高へ変換する規則や、ドップラー効果が自動で加わるわけではありません。
揺れと動きを組み合わせる
二つの周期的な変調で、音高、フィルター、音量などを揺らせます。揺れの周期と軌道の周期を同じにする条件と、少しずらす条件を用意し、反復ごとに一致する点が変わる構成を考えます。
合成した音にはIDを持たせ、後段の遅延音や粒状化した音と元の音源を区別します。音源合成で変えた部分と、空間への配分やエフェクトで変えた部分を順に確認し、複雑さを段階的に加えます。
音色の変化を評価する
波形、音量、フィルターを一度に変えると、差の原因を分けにくくなります。一つずつ操作し、信号の強さ、急な不連続、発音数の上限も調べます。聴取比較では、音量の違いを音色の好みと取り違えない条件を整えます。
制作例の設計
一本の軌道を異なる音色で読む
- 音高、発音時刻、軌道を固定し、音色場を使わない一定の音色を基準にします。
- 位置に応じて波形の混合だけを変えます。次に混合を固定し、フィルターだけを変えます。
- 二つを合わせた条件も保存し、音色から軌道のどの部分を識別できるかを比較します。
現在の実装
制作基盤は最大16声で、四波形の混合、FM、16部分音の加算合成と減衰合成、リング変調、AMを実装しています。減衰合成は発音後に弱まる正弦波群で、物理共鳴器のモデルではありません。ノイズ、音量包絡、フィルター、二つの周期変調、位置に基づく音色補間も使えます。音高や音量、各合成パラメーターの変化は音声処理側で平滑化します。
研究課題
今後は、音色と位置の対応を聴き手が覚えられるか、別の軌道でも同じ対応を利用できるかを調べます。音色の変化量、移動速度、反復回数を分けて検討し、楽器として扱いやすい範囲を探ります。
目次へ戻る ↑03 / MOTION
モーション
動きを、表示の装飾だけでなく、声部の時間と関係をつくるための素材として扱います。個々の軌道、集団の変形、空間の変形、時間の読み替えを分け、どの操作が聴こえ方に作用したかを追います。
方式・パラメーター・制作手順を詳しく読む ↗軌道の形と進み方
固定、直進、通過、周回、振り子、螺旋などを、開始位置、半径、速さ、位相、持続時間で記述します。二つの音が同じ形を動いても、始まる時刻や位相が違えば、出会う場所と間隔が変わります。
動作名だけで音の変化を決めつけず、位置が変わるのか、音量が変わるのかを確認します。たとえば固定位置で発音を繰り返す動作と、位置を周回させる動作は別です。移動とリズムを独立に設計できます。
個体、集団、空間を重ねる
各音源の軌道を保ちながら、集団全体を回転、移動、拡大できます。さらに空間へねじれ、曲げ、鏡映などを加えます。個々の声部と全体の動きを別の層にすることで、局所的な反復と大きな変化を共存させます。
変形の順序は結果の一部です。回転してから移動する場合と、移動してから回転する場合では経路が変わります。処理順を保存し、群れや相互作用を使う場合も初期状態と乱数の種を固定して比較します。
動きの時間と音の時間
軌道を読む時間には、拡大、反復、停止、逆行などの変換を加えます。ただし軌道を逆向きに読むことと、録音した音を逆再生することは別の処理です。どちらの時間へ作用するかを明示します。
基準時刻は音声処理側から進め、画面の更新は表示に使います。群れや状態を持つモデルも一定の計算刻みで更新します。画面が滑らかに見えるかどうかと、音や出来事の時刻が一致するかを分けて確認します。
経路を聴き取れるか
同じ音素材を使い、固定、単独の周回、二声の交差を比較します。速度、位相差、発音間隔を一つずつ変え、声部を追えるか、まとまりが変わるかを調べます。映像を隠す比較も行い、見えた動きを聴こえた動きと混同しないようにします。
制作例の設計
二つの周回から声部をつくる
- 同じ半径と速さの二音を用意し、位相をずらします。音高と音量を固定して関係を聴きます。
- 片方の向きを反転し、出会う点と通過する間隔を比較します。次に二音を同じ集団として回転させます。
- 動作の設定を保存し、音色場を加えた条件と比べます。軌道の差と音色の差を分けて記録します。
現在の実装
制作基盤には24の基本動作、集団と空間の変形、時間変換、境界処理を実装しています。後方へのシークや同じ条件での再実行を検証しています。群れや物質的な動作も、作曲用の数値モデルとして扱います。
研究課題
今後は、軌道の形、速度、交差が声部の分離や緊張感へ与える影響を比較します。再生環境や聴取位置が変わっても残る手がかりを調べ、動きの語彙を知覚の評価と結びつけて整理します。
目次へ戻る ↑04 / COMPOSITION
作曲
音高と長さに、場所、移動、声部同士の関係を加えて作曲します。いつ、どこで音が出るかに加え、一つの出来事が次の出来事の条件をどう変えるかを記述し、曲の構造として聴ける形を探ります。
音符から、関係を持つ出来事へ
一つの声に音型、位置、軌道、開始時刻、寿命を与えます。受け渡しや分岐には親子関係を、相互作用には結び付きの強さと遅延を持たせます。同じ音型を別の場所へ渡す場合も、元の声とのつながりを追えるようにします。
音源の識別子と状態を保存すると、曲の途中へ戻って条件を比べられます。偶然性を使う場合も乱数の初期条件を固定し、規則を変えた結果と、偶然に生じた違いを分けて検討します。
声部の関係を調整する
発音間隔、位相差、応答の遅れ、分岐数、休止、結合の強さを操作します。二つの声を逆方向へ動かしても、発音を揃えれば共通の拍を保てます。位置の分離と時間の一致を別々に変え、声部のまとまりを探ります。
履歴を、次の音の条件にする
通過の履歴が経路を変え、使われなかった結び付きが弱まり、合図の欠落が次の注意配分を変える、といった規則を構成します。Room Aの共通の拍からの分岐、Bの残る経路、Cの変わる応答は、こうした関係を扱う作曲スタディの主題です。
一つの条件から形式を育てる
最初に共通の型を提示し、関係を一つ変え、その影響が残る区間を置きます。比較では音素材と入力列を揃え、履歴の有無など一条件だけを変えます。どの声を追えたか、変化した規則を説明できたかを記録し、音量差による印象も確認します。
制作例の設計
四つの声の受け渡し
- 新しく作った三音の音型を、四つの仮想位置で順番に鳴らします。音高と発音間隔を固定し、受け渡しの順序を覚えられる長さで提示します。
- 一つの結び付きだけを遅らせます。遅れが次の声へ引き継がれる条件と、各声が元の時刻を守る条件を、同じ開始状態から作ります。
- 短い休止を挟んで二条件を再提示します。順序を入れ替えて聴き、遅れの出発点と全体のまとまりを識別できるかを調べます。
現在の実装
制作基盤には、状態の保存と復元、順序付きの変換、決定的な履歴モデル、条件を切り替える比較スタディがあります。履歴や予測は合成した小さな状態モデルで計算しています。上の四声例は制作方法の提案です。
研究課題
今後は、関係の変化を聴き取れる密度と長さ、同じ声として認識できる変化の範囲を調べます。構造が計算上再現できることと、音楽的な関係として伝わることを、それぞれ検証します。
目次へ戻る ↑05 / EFFECTS
エフェクト
エフェクトを、音色を加工する処理と、新たな場所で鳴る音を生む処理として扱います。遅れた音、残った音、帯域ごとに分かれた音が、それぞれどこで、どのくらい続くかまで設計します。
方式・パラメーター・制作手順を詳しく読む ↗処理した信号にも、位置を与える
同じディレイでも、元の位置で繰り返す音と、後方へ渡る音では異なる構成を作れます。遅延時間、減衰、繰り返し、移動先を独立した変数にします。発生元との関係を保持し、どの音から生まれた響きかを追います。
画面に粒子が増えただけでは、音が増えた証拠にはなりません。独立した位置へ送る信号には実際のPCMを持たせ、元音、効果音、出力のどの段階を計測しているかを分けて表示します。
領域への出入りで、響きを変える
球や箱などの領域に、処理量と境界のなだらかさを与えます。音源が近づくにつれて残響を増やす、通過をきっかけに音を捕まえる、といった変化を設計できます。領域が重なる場合は加算や優先順位を選び、境界で急に音が跳ねないかを確認します。
時間と帯域を、別の声へ開く
粒の長さ、発生密度、再生速度、捕まえる区間を変えると、短音から持続音への連続性を探れます。低・中・高域を別の位置へ送る構成や、立ち上がりと持続部分を分ける構成では、元音の輪郭を残す程度を調整します。分割の結果は実信号を比較して確かめます。
音量と密度を揃えて比較する
元音と効果音の比率、残響の長さ、広がりを一度に変えると、違いの原因が曖昧になります。一条件ずつ変え、出力ピークと音量を確認します。効果音を元音の余韻として聴いたか、別の声として聴いたかを尋ね、映像を消した条件も比較します。
制作例の設計
一打から、三つの余韻へ
- 新規の短い合成音を一つ置き、処理を加えずに提示します。音量と発音間隔を決め、後の響きが次の発音を隠さない長さを選びます。
- 同じ音から、原位置の反復、別位置の反復、拡散する残響を作ります。各条件を別々に提示し、遅れと広がりの役割を分けます。
- 元音と効果音を個別に聴いてから重ねます。各信号の計測と聴感を照合し、どの段階で一つの音が複数の声に感じられるかを調べます。
現在の実装
実装にはPCMディレイ、粒状処理、時間領域の捕捉・反復、帯域分割、遅延線を使う残響と拡散があります。FFTによるスペクトル凍結や測定IRの畳み込み残響は未実装です。上の三条件例は制作方法の提案です。
研究課題
独立した声として聞こえる遅延と距離、拡散しても方向を追える範囲を今後調べます。処理の正確さ、知覚上の広がり、実会場の反射や残響は分けて評価します。
目次へ戻る ↑06 / EXPERIENCE
体験設計
音がどこで鳴るかに加え、人がいつ入り、何に気づき、どのくらい留まるかを設計します。音と映像の対応、説明を読む時間、操作のタイミングを含め、関係の変化を追える体験を考えます。
入る、気づく、聴き直す
初めに追いやすい音型を置き、次に一つの変化を加え、再提示で違いを確かめる流れを作ります。章の長さ、出来事の密度、無音の間隔を調整し、途中から聴いた人にも繰り返しの手掛かりが届くかを検討します。
無音は、前の音の印象を保つ時間にも、区切りを知らせる時間にもなります。音源が止まった後の余韻と、作品が次へ進むための休止を区別し、再開する合図が必要かを設計します。
音と映像の共通原因を示す
音源のID、時刻、位置、状態から音と映像を作り、何が動いたために響きが変わったのかを追えるようにします。発音の予定、実際の信号量、最終出力の量は区別します。説明図の明るさが何を示すかを揃え、見た目だけで音の有無を断定させないようにします。
操作と聴取位置を、比較条件にする
再生開始と停止を明確にし、音量を調整してから聴ける順序にします。比較中に変える操作を絞り、同じ状態へ戻せるようにします。会場では中央と周辺、移動中と静止中を別条件にし、画面の向きや他の観客による見え方の差も記録する計画です。
何が伝わったかを、具体的に尋ねる
面白かったかという印象に加え、追った声、気づいた変化、予想した次の音を尋ねます。映像あり・なしや提示順序を変え、説明文を読む前後も比べます。慣れや好み、聴取環境を記録し、少人数の反応を一般的な知覚効果へ広げないようにします。
制作例の設計
合図と応答を聴き比べる
- 新しい合図と二つの応答を作り、音だけで提示します。最初は応答の順序を固定し、どちらを先に聴いたかを答えられる長さにします。
- 同じ音に、共通の出来事から作る説明図を添えます。音と図の条件を保存し、図によって順序の判断や注意の向きが変わるかを比べます。
- 短い休止後に応答の遅れだけを変え、再提示します。操作を戻して繰り返し、気づいた変化と確信の程度を記録する方法を試します。
現在の実装
制作基盤には再生・停止・シーク、章と休止、状態の保存、実PCMの計測、同じ記録を使うAV試作があります。公開ページではローカルアプリの制作動画と、仮想空間からの2ch試聴を掲載しています。上の聴取例は評価手順の提案で、実験結果ではありません。
研究課題
聴取評価は今後の研究です。再現できるデータ、端末上の動作、会場の音響・映像同期、人の理解を別々に確認し、Room A/B/Cの異なる時間と関係の主題へ応用します。
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DESIGN EXERCISE
六つの領域を、
60秒の作品に組み合わせる。
次の60秒は、共通の記述から制作するための設計案です。一つの変化を聴き分けたあとに複数の変化を重ね、最後に比較へ戻れる構成にします。
基準をつくる
一つの短い音を固定位置で繰り返します。音色、音量、発音間隔を決め、聴き手が比較できる基準をつくります。
位置だけを変える
同じ音を一定の周期で周回させます。音源、聴き手、出力の関係を保ちながら、動きが聴こえ方へ与える変化を調べます。
関係を重ねる
逆向きに動く第二声部と遅延した音を加えます。まず軌道の関係を決め、次に音色の差、遅延時間、減衰を調整します。
余韻と比較を残す
新しい発音を止め、遅延音が消える過程を聴きます。最後は無音に戻し、固定・周回・重なりの違いを言葉と記録で振り返ります。
再現できる記録にする
シーン、乱数シード、音源ID、出力順、音量設定、時刻、聴取位置を保存します。一回の印象を結論にせず、提示順序や音量の条件をそろえて比較します。Room A/B/Cへ適用するときは、部屋ごとの機構と未確定項目を維持し、同じ基盤から異なる作品を組み立てます。
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